マーサ・グライムズ『桟橋で読書する女』

湖畔のレストランで働くシングルマザー、離れて暮らす大学生の息子、町の保安官。それぞれの視点から描かれる閉塞感と現実に対するもどかしさ。

女性ばかりを狙った連続殺人事件と犯人の独白が挿入されてはいるものの、ミステリ要素はほとんどない。物語を通じて描かれるのはさまざまな孤独の形だ。

作者はスコットランドヤードの警視と元貴族のちぐはぐコンビが活躍するパブシリーズで有名だが、初めてアメリカを舞台にしたこの小説の世界観の方がわたしにはしっくりきた。彼女の描くキャラクターの持つ独特の陰影は、イギリスの片田舎よりアメリカの地方都市に似合う気がする。

 

ミステリ小説が好きで、図書館に行けば必ず一、二冊は借りる。ほとんどはヨーロッパ圏の作品だ。アメリカのハードボイルド系は苦手である。怖いもの知らずな主人公が危険の中へ飛び込んでいくのは読んでいて心臓に悪い。

好きなのは地道な捜査で徐々に犯人像をあぶりだしていくもの。ヒーロー的探偵よりチームプレイの警察小説が好きだ。

フランスのミステリ作家フレッド・ヴァルガスによれば、ミステリとは「不安の解消を楽しむもの」。わたしが求めているのはまさにそれである。

事件が起こり、試行錯誤を繰り返しながら様々な考察がなされ、最後にすべては解決する。この丁寧なプロセスが、日常生活のストレスを穏やかに解消してくれるのだ。言うなればセラピーにも近いものがある。だからドキドキハラハラはいらないの。

そんなわたしの定番は、コリン・デクスターとP・D・ジェイムズ岡本綺堂の『半七捕物帖』である。最近は北欧ミステリにもはまっている。全般的に陰惨なイメージが強いんだけど、それを吹き飛ばすような魅力あふれる警察官が沢山登場するのですよ。