徒歩圏内に2つ、

通勤路線に3つある図書館を利用している。館ごとに特色があり、蔵書の傾向も違うので、その時々の読みたい本によって使い分けている。一番近い図書館で受け取れるように取り寄せてもらう事もあるが、週末の散歩も兼ねて出かける方が多い。

わたしの育った埼玉の片田舎は、小さな山の片側を開発して作られた新興の住宅団地だった。まだ公民館もできておらず、バスを改造した移動図書館が巡回していた。

小学校では図書委員をしていたし、当然図書室も利用していたはずなのだが、あまり記憶に残っていない。それだけ移動図書館の来る日が楽しみだったのだろう。

バスのステップを上ると運転席の後ろに貸出カウンターがあったと思う。狭いスペースを目いっぱい利用して並べられた書架の間を縫うように歩き、面白そうな本を片端から引っ張り出してページをめくる。時間をかけて選んだ本を抱えてバスから降りると、家までの距離がもどかしかった。

貸出係はボランティアだったのだろうか。わたしの母もよくカウンターの中に座っていた。わたし以上に本好きの母が、わたしの選んだ本をどう評価するだろうかといつも緊張したのを覚えている。

いつだったか貸出手続きをしながら、母が「きっと選ぶと思った」と言った。我が意を得たりという顔だった。本のタイトルは『影との戦い』。『ゲド戦記』の第一巻だった。