ネレ・ノイハウス『深い疵』

外国政府の顧問も務めた著名人の殺人事件で物語は始まる。被害者はホロコーストを生き延びたユダヤ人なのだが、司法解剖の過程で腕に刺青の痕跡が見つかり、更にそれがナチ親衛隊員特有のものだと判明する。

先週からずっと読んでいたドイツの警察小説。本日ようやく読み終わりました(ちなみに既読ではなかった。よかった)。

通勤途中と休憩時間を使っての読書だったというのもあるが、展開が複雑で登場人物が非常に多かったのも手こずった原因だろう。「誰だっけこれ」「時系列どうだっけ」の連続であった。まあ事件の経緯がほんとややこしいのだ。状況が二転三転する中でまた新たな人物が登場するから余計にね。それだけに読み終えた時は「やったぜ」という感じであった。

日本では最初の翻訳だが、訳者あとがきによれば、これはシリーズ三作目とのこと。主人公とその周辺の人物関係に若干説明不足の感があったのはそれでか。ナチの残党がらみの犯罪は日本の読者にもアピールしやすいというのが選ばれた理由だろう。

主人公の首席警部はやはり最後まで印象が薄かった。どうやら貴族の出らしく、おっとりとしたお坊ちゃまタイプ、けれど芯は強いといった人物である。代りに部下の警部が、猪突猛進型だけどあっけらかんとした女性で、なかなかチャーミングであった。彼女の行動力を彼がフォローする、というコンビなのかもしれない。

探偵物と違って誰かが名推理を働かせる訳ではなく、失敗と失態を繰り返しながら、仮説に基づいた地道な捜査で真実に近づいていく。犯人の行動のほんの小さなほころびや、見落とされていたわずかな手がかりから事件が一気に解決へと走り出す時が、警察小説を読む醍醐味である。

重たい題材を扱った本作だが、読後感は不思議と爽やかだった。これが作者の持ち味かもしれない。

十年近く前に翻訳され始めたシリーズなので、現在はまとまった冊数が出ているのがありがたい。次回は第一作目を借りようっと。