BSテレビで『有頂天家族』の

再放送をやっている。森見作品はいくつかアニメ化されていて、どれも出来がいいと思う。原作好きからすると「あのエピソードを削るのか」とか「このキャラクターはイメージが違う」なんてなりがちだけど、幸いにしてそういう不満を感じた事はない。

わたしはアニメ版『四畳半神話大系』で初めて森見登美彦という作家を知った。遅れて読んだ原作も面白く、以来愛読するものである。軽妙なユーモアと底なしの闇が同居する不思議な作家だ。どこかで内田百間が好きと読んで納得した。百間はわたしも大好きだ。

借金の名人、乗り鉄の元祖(多分)なんてエピソードで知られる百間は夏目漱石の門下生。貧乏暮らしや鉄道旅行の随筆が人気を博した反面、小説では透明な悪夢とでも呼びたくなるような幻想世界を描いている。

森見作品の主な舞台は「作者の頭の中にある京都」と断り書きがある。確かに、どこか現実的でない陰翳に彩られた世界だ。コメディタッチの作品であっても、幻想的な作品であればなおのこと。

毛玉たちの住む静かな糺の森や、黒髪の乙女が胸を張って歩く賑やかな町にも、暗い木陰や細い路地があって、その奥で何かが起きそうな気配がある。祭りの宵闇や古道具屋の店内には、どろりとした墨のような異世界への入り口が開いていて、時折奇妙な獣が顔をのぞかせる。

ペンギン・ハイウェイ』のクリアな世界観は、だから彼の作品としては珍しいものだと思う。夜の闇でさえ群青色の宝石のようにきれいだった。物語最後の独白が、少年の真直ぐな視線となって、空も海も突き抜けて時の果てまで届く気がした。

そういえば『夜行』が刊行された時、読者による考察を募集するキャンペーンがあったけど、わたしは「失恋の痛みに向き合おうとする物語」と読めました。彼女の失踪は現実を認めたくない主人公の気持ちが作り出したもので、友人たちのちぐはぐな証言や体験談はその矛盾を暗に指摘するもの。物語は彼の内面世界を描いており、時折挿入される怪現象こそが現実世界。謎の絵画を巡る旅の過程で、次第に心が変化していく・・・というの、どうでしょう。