『ヴェラ 信念の女警部』

シリーズ途中からみたので、主人公ヴェラの過去がほとんどわからないのだが、長年父親と確執があった事、父の死後に彼の家で暮らすようになった事程度の設定しか明らかでないらしい。

ドラマの舞台はイギリス北部らしく、広がる草原や低い灌木、寒々とした海辺など、荒涼とした風景が独特の雰囲気を出している。

何の予備知識もないままみていたら、オープニング・クレジットにアン・クリーヴスの名前があって驚いた。彼女の『シェトランド四重奏』シリーズを読んでいたからだ。

わかってしまえば確かに、ドラマの舞台や物語の進め方には共通点があるように思われる。彼女の作品の面白いのは、第一線で現場に係る人々を徹底して描いている事で、警察小説ではお馴染みの、捜査に横槍を入れる俗物署長なんかは出てこないのだ。

事件の解明と犯人逮捕に至るまではホントに地道な作業なのだが、その過程で描かれる登場人物それぞれの葛藤や心情が、通奏低音のように作品世界をしっかり支えている。

彼女の経歴をみると、デビューからほぼ毎年のように作品を発表していて、かなり多作であるようだ。日本ではまだ『シェトランド』のシリーズと、他に一冊が翻訳されているだけだ。

ヴェラ・スタンホープのシリーズは本国で人気らしいのに(ドラマ化されるくらいだしね)、なんで翻訳されないのかな。主人公が中年のおばさん警部だからかしらん。

ドラマの中で彼女の私生活はほとんど描かれないけれど、荒野にぽつんと建つ一軒家の散らかり放題のキッチンで、ひとりウイスキーを飲むシーンは何度か登場する。どうやら家事全般苦手、というよりやる気が元々ない。セルフ・ネグレクトに近い状態にも見えるのはわたしだけかな。

仕事中毒で思い立ったらすぐ行動、誰に対しても臆せずずけずけと物を言う。外へ向けたエネルギーと、内にこもった時の無気力さが対照的で、原作の小説ではどう描かれているのかとても気になる。