いい椅子がひとつ

欲しいなと思った。座ったらもう動きたくなくなるような椅子。休みの日や夜遅く、その椅子で本を読んだりぼんやりしたりするのだ。いいなあ。

建築家渡辺武信の『住まい方の実践』によれば、欧米では椅子は個人に属する物だそうだ。言われてみれば映画やドラマでは、父親がパイプ片手にどっかり腰を下ろすオットマン付の椅子とか、ばあちゃんがいつも座ってる古い布張りの椅子とか、リビングのあちこちに形も大きさも違う椅子があったように思う。

極小範囲の自分の場所として、椅子というのはよくできている。ただし居心地が良い事が第一条件だから、カフェのスツールみたいなやつじゃいかんね。体がすっぽりはまり込むような安定感と安心感のあるもの。となるとお値段もそれなりのものになるし、かといって適当なところで妥協する訳にはいかない。

いい椅子がひとつ欲しいなあ。そういえば建築家宮脇檀も、センスのいい部屋にしたかったらまず上等の椅子を買えと主張していた。そうすると下手な安物なんか部屋に置けなくなるからだって。そりゃ懐に余裕さえあればねえ。

まあ必要最低限のミニマムな暮らしなら、上等な家具を二つ三つ揃えれば満足できるかもしれない。ただしそれを選ぶ確かな目を自分が持っているかは別の問題である。