霧のような雨が降っている。

雨は好きだ。人通りの少ない場所でマスクを外すと、普段は感じない土や草の匂いがする。都市部でも自然を感じられる貴重な機会である。

湿気と匂いはやっぱり関係あるのだろうか。我が家では梅雨時になると家中が獣臭くなります。慌てて床を雑巾がけしたりするけどあまり効果はない。カーテンや壁紙にもしみついてるんだろうなあ。

家の中から土砂降りの雨を見るのも好きだ。浮世絵のような雨脚や、屋根に激しく落ちるしぶきで煙ったような光景は、時間が経つのも忘れて見入ってしまう。

残念なのは雨音が聞こえない事だ。マンションだから仕方ないけどね。雨の魅力の半分は音にあると思う。

軒を伝い、庭木に落ち、土を打つ雨の音。雨粒に叩かれる葉の重たげなざわめき。こういうのは庭のある一軒家でないとなあ。

薄暗い部屋の中で、開け放した縁側から庭を眺める。まとわりつく湿気と耳を優しく浸していく雨音は、時間が止まったような感覚と心地よい倦怠感をもたらしてくれる。

昔の文人たちはそんな環境で筆をとっていたんだろうなあ。