ヒヒに似た怪物が叫びながら窓の外をうろついている。

部屋に入ってこられたらまずいが、気がついたら窓が三分の一程開いているではないか。慌てて閉めようとしたらカギの部分に大量の輪ゴムが巻き付けられて、しかも経年劣化でべとべとに固まっている。

 それを必死ではがしている間にも怪物は窓の向うでこちらを威嚇しながらうろつきまわっている。何とか片側のカギを閉める事ができたと思ったらまた反対側のサッシが開いてしまい、時々怪物を目が合うという恐怖と戦いながらようやく窓を閉めたと思ったら、今度は部屋に知らないオッサンが入り込み、勝手にくつろいでいた。

 築数十年は経っていそうなアパートの一室である。わたしはここで暮らす事になったらしいのだが、部屋の中は前の住人の置いていったゴミであふれている。オッサンを警戒しながら入り口を確かめると、うすっぺらいドアは鍵もかからず非常に頼りないものだった。

 外からまた怪物の叫び声が聞こえ、見ればまた窓が開いている。オッサンは気にする様子もなく畳に寝ころんでこちらを不穏な目つきで眺めている。

 緊迫した空気が途中で一変するのはこの手の夢の特徴で、多分眠っている本人の集中力の限界なのだろう。その後の展開は非常にゆるいものとなるのが定石である。

 窓に突進して蹴りを繰り出すと怪物はあっけなく落下して(いつの間にか部屋は建物の三階に移動していた)、数回繰り返したらばらばらになって死んでしまった。一昔前のテレビゲームのようだった。

 オッサンは話してみれば意外ときさくで面白い人物であり、彼を通して他の部屋の住人とも知り合いになった。たまったゴミを片付けて掃除すれば、昭和レトロの好い感じな部屋になるかもなと思ったところで目が覚めた。

 

 どうしてあんな夢を見たのだろう。思い返せば今週は何かと緊迫した雰囲気の夢ばかりだった気がする。

 反して現実の生活は非常に穏やかで、仕事もさほど多忙ではなく、大きなトラブルやミスもなく週末を迎えようとしている。そうなるとかえって不安になるのがわたしの面倒な性格である。こんなに平穏でいいはずがない、と疑る心の均衡を保つために、一連の夢を見たのかもしれない。人生はプラスマイナスゼロが丁度いいのだ。

 綺麗になったあの部屋で、少しの間暮らしてみたかったな。